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2種類のタイプを両立させている人

 仕事への取り組み方で、人は2種類に分けられるような気がする。「抜けもあるけど仕事が早く、どんな内容にも果敢にチャレンジする人」←→「丁寧な仕事をするために常に慎重で、ある意味冒険をしない人」。
 前者は、仕事が大量でも難しくても引き受けてくれる。その代わり意外なポカをすることもあるので、慎重に検品する必要がある。後者は、ミスが少なく安心できる。その代わり、急ぎとか大量の仕事はまず引き受けてくれない。

 

 でも、長くやっている人はタイプの違いが小さいことが多い。どちらの登山道から登っても目指す山頂は一つなので、お互いの距離が近づいてくるのだろう。

 

 私がずっと入力をお願いしている福岡のhiroさんは、慎重で丁寧な性格。仕事の精度が高い。落ちや抜けがない。後者の登山道から登ってきた人なのだろうと思う。だけど、仕事がスピーディーで、量をこなすことができ、新しい種類の仕事でもやってくれる。どういう仕事歴なのか? それを連載前半で取り上げる。
 ところが慎重さが裏目に出て、hiroさんはテープ起こしに苦手意識を持っていた。連載後半は、そんなhiroさんの最近の変化について…。

 

hiroさんの自己紹介

 

福岡県在住。
1962年生。短大卒業後、某工場の分析室に勤務。
1984年結婚。他県へ移り、医療事務の派遣業務に就く。
1986年出産のため退社(途中で福岡へ戻る)。
長女が1歳の時、母が急に病に倒れ、8カ月の闘病の末他界。
少し年の離れた次女の出産は近所の友人の助けで乗り切りましたが、
とても外に働きには行けないと思い、在宅ワークを始めました。
現在、数カ所のMLに所属し、ヘルプのお仕事をしています。

 

名前を忘れなかった

 hiroさんには2006年3月以来仕事をお願いしている。メーリングリストに私が出した、データ入力者募集に応募してくれたのが最初だった。
 その前年2005年秋、私が講師を務めていたオンライン講座データ入力コースを、hiroさんは受講していた。

 

 データ入力コースは3カ月で、毎週Webサイト上に「今週の課題」と「先週の解答と解説」が発表され、数回の添削を行い、質疑応答はメーリングリストでという形態で進行した。


 このとき、多くの受講者は課題を提出するだけとか、MLに「はじめまして」メッセージを書いてくれる程度にとどまる。
 こちらがうながしても、この機会に質問してみようとか相談してみようとか、課題提出時のメールに自分のことを知ってもらえるよう何か書こうとか、そういう積極性のある人は少ない。

 

 データ入力は、初級レベルではさほど難しい技能や高度な判断力は必要としない。オンライン講座の添削課題も、高度なものではなかった。
 それでもパソコン自体に不慣れな人は苦戦するし、表計算ソフトとしてエクセルを使える人でもデータ入力に使う場合には戸惑いがある。データ入力経験者でさえ、思わぬ抜けや落ちは常にあるものだ。

 

 その点hiroさんは、添削課題の出来はパーフェクトだった。MLでの質問から、添削しない「今週の課題」も全部やっていることが分かった。MLでの質疑応答も文章がクリアだし、課題提出のメールには個人的なことがさりげなく書いてあったりもした。

 

 だから、私は講座が終わっても名前を忘れなかった。翌春の募集にhiroさんが応募してくれたときは、安心して仕事をお願いした。

ハイチュウは飛行機に効く

 今回の記事には会話は出てこない。理由は、録音した取材音声を聞くのが怖いからだ。

 

 11月13日に佐賀で就業体験セミナーがあって、私はエフスタイルの宮田志保さんと一緒にテープ起こしコースの講師を務めた。宮田さんは日帰りだったけど、私は前日夜に福岡空港に着いた。このときのフライトで鼓膜をやられた。
 高度を下げ始めたあたりから耳がキーンとなって、次第にひどくなり、両手で耳を押さえていないと耐えられないほどの痛みになった。
 つばを飲み込むとかあくびをするぐらいでは全然回復しない。ほとんど音が聞こえない。

 

 着陸後、耳の中でバーンという爆発音がして(この瞬間が一番痛かった)、ある程度聞こえるようになった。それでもまだ音が遠い。hiroさんと夕食をご一緒しながらお話を伺ったのだけど、自分がどのぐらいの声量でしゃべっているのか分からない。hiroさんの声はもっと遠くに聞こえる。
 おかげで、ザイニュー始まって以来の不出来なインタビューになった。最終的には、ホテルに戻ってお風呂に入っていたとき、普通の音が聞こえるようになった。

 

 「ハイチュウですよ、機内では噛んでいることが大事」と、hiroさんが教えてくれた。つばを飲み込むような動作より、噛む動作の方が「キーン」には効くのだそうだ。
 翌日、福岡から佐賀に行く途中でhiroさんが買ってくれたのは、「九州限定販売 熊本県産デコポン果汁100%使用 ハイチュウ デコポン」。おかげで、帰りの飛行機は耳が痛くならずに済んだ。しかもおいしかった。

 

 それにしても、前泊だったからよかったものの、あんな状態ですぐセミナーだったらと思うとぞっとする。飛行機に乗るときはハイチュウ必携。

 

勉強に無駄がない

 録音した音声も起こさないのに、11月に伺った内容を今ごろになって書けるのは、一つにはhiroさんが持ってきてくださった年表があるからだ。私も、hiroさんにお話を伺ったあと宿泊先の部屋で、持参のノートパソコンに取材した内容を入力した。年表とそのファイルを見比べながら、これを書いている。

 

 年表を見ると、hiroさんの在宅ワーク歴は、勉強の項目と仕事の項目が交互に出てくる。仕事に必要だから勉強している、あるいは勉強したことを仕事に結びつけている。いずれにしろ無駄がない。

 

 高校卒業からの出来事がずっと書いてあるけど、在宅ワークとか入力の仕事に関連する項目は、二人目のお子さんの幼稚園時代から始まっている。

 

1996.12 日本商工会議所ワープロ技能検定3級合格

1997. 2 印刷会社よりデータ入力・書類作成受注

 

 hiroさんは教室に通って勉強し、ワープロ検定3級を取った。当時ワープロ検定はかなり流行し、私も3級を持っている。
 hiroさんはその教室で「在宅で入力の仕事がしたい」と相談してみた。冬は印刷会社が忙しい時期で仕事があるはずだから電話してみるようにと言われ、電話帳を見ながら地元の会社に片っ端から電話した。12月に合格して翌2月にはもう仕事を開始している。

 

 「冬は印刷会社が忙しい時期で、仕事があるはずだから」というワープロ教室の人のアドバイスも素晴らしい。
 私もテープ起こしの就業体験セミナー(秋から冬に開催)で毎回、「今からすぐ勉強して、この冬中に仕事に結びつけましょう。年度末まではどこも忙しいからチャンス」と力説するのだけど、すぐ必死で取りかかる人はそんなにいない。
 冬から年度末は個人もたいてい慌ただしいけれど、企業も忙しい。仕事をつかみやすい時期なのだ。

 

お互いが財産

 hiroさんが入力の仕事をスタートした印刷会社は、機材を自宅に貸してくれた。hiroさんが「組版機」という名称で記憶しているという機材。当時はそういうものがまだあったのだ。
※パナソニックのJ200という機種の当時のプレスリリースをhiroさんが見つけてくださった。hiroさん自身が使っていたのは、同じメーカーのもっと古い型だという。

 

 その印刷会社はレーザープリンタも貸し出してくれた。と聞くと、ぜいたくな仕事環境に思えるかもしれない。ところがその理由は、当時の業務用マシンにはプリンタの互換性がなかったためだ。例えば、富士通の編集専用機には富士通のレーザープリンタしか接続できないようになっていた。
 当時のレーザープリンタというのは、途方もなく重く大きく、自宅に置くには邪魔な代物だったけど。

 

 パソコンは急速に広まり、組版機やワープロ専用機は終わりの時代を迎えていた。
 hiroさんは、その印刷会社に重宝がられて長いこと仕事をした。しかし、経営者が変ったことにより発注量は徐々に減り、最終的には会社が遠方へ移転して、もう受注できなくなってしまった。それが2004年9月だから、なんと丸7年も1社専属でやったことになる。

 

 こんなに長続きする人は印刷会社にとって財産だ。でも、hiroさんにとってもその会社は財産だったようだ。単価は悪くなく、仕事が多いと結構な収入になった。
 hiroさんの前にやっていた入力者はもっと単価が高かったそうで、そういう親切な会社だから業績が危なくなるのかもとhiroさんは苦笑したが…。でもその会社は倒産したわけではなかったから、最後まできちんと報酬はもらえた(仕事先が傾いて倒産という事態に私は過去何度か遭遇したが、hiroさんは一度もないという。うらやましい)。

 

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