卓也ママさん2

行政は在宅より再就職支援(?)

卓也ママ 省庁的な区割りを言うと、在宅ワークはもともと旧・労働省の女性局が管轄してたわけです。わけあってシングルになってしまった女性が、パソコン技能を身につけることによって在宅で仕事することを支援するという意味でね。
ウイルの奥山睦さんにお聞きした話では、それが今は「再就職」を支援するというスタンスが強くなってきているそうです。

 

(卓也ママのおまけ)
在宅ワークの適正な実施のためのガイドラインが出たのが平成12年6月です。“育児期を中心に仕事と家庭の両立ができる働き方”なんて文言がでております。
たしかこのガイドラインを発表するにあたってのヒアリングに呼ばれたんです、雪のふる日の霞ヶ関に(笑)。それが縁で在宅ワーク検討委員会に呼ばれたんでしょうか。

 

廿 在宅ワークを始めるんじゃなくて、会社へ戻してやる…。なるほど、そういう動きになってるのかー。

 

とすると、かつてマスコミが在宅ワークブームをあおったこと、やたら在宅ワーク系の通信教育講座(テープ起こしとか)が乱立したことの裏には、「役所が乗り出したっていうことは、在宅ワークは有望!」という彼らの判断があったのだろう。
ブームがあきられたこと、稼げる人は少ないという実態が知れ渡ってきたこと、悪徳内職商法が摘発されたこと…などを、私は退潮の理由として考えていた。でも、行政の積極姿勢が後退したという理由もあったのかもしれない。
在宅ワークの現在の管轄は、厚生労働省の雇用均等・児童家庭局。

 

廿 Home Worker's Webは、そのせいで最近動きがないわけですか?

 

卓也ママ あれはそういう理由じゃなくて、今年度もこれから開催のセミナー予定がありますよ。
セミナーをやるときは東京都の広報に載ったりするから、参加者はかなり大勢集まるんです。でも、どうしてもレベル的には低くなってしまって。
最初に奥山さんの全体向け講演が2時間。そのあと、グループごとに分科会をやるの。私はデータ入力の分科会担当でフォローアップ講演みたいなのをするんです。一通り話して、何か質問ありますか?というと、「お金払って登録したほうがいいんですか?」という質問がやっぱりくる(笑)。そういう質問をする人は、常に存在するんです。

 

「資料請求にお金がいるとか、登録にお金がいるようなところは信用できない」と、言う側は言いあきるほど言っている。でも質問するのはいつも違う人だから、その人にとっては初耳なのだ。

 

Home Worker's Web 厚生労働省の委託により、独立行政法人日本生産性本部が運営している在宅ワーカー支援サイト。

 

次々に独立する優秀なメンバー

卓也ママ 行政といえば、eジャパンとかIT講習会って何年ぐらいでしたっけ。各市区町村でやってましたよね。

 

廿 ああ、IT講習会、いつだろう。そういえばうちの両親も受講してた。

 

調べたら、2000年に森首相が言い出して始まったらしい。そういえば、当時「IT革命」という言葉もあった…なんて大げさな。

 

卓也ママ 学校も、パソコンを入れたけど使える教員がいない!と言ってたころね。当時は県や国からいろいろな補助が市区町村の教育委員会に出て、ITサポートにインストラクターが何回も学校に行けたんだけど、今は補助金がなくなって全然行けなくなった。

 

廿 そのころ、IT講習会のインストラクターをやってた人って結構いますよね。学校に教えに行ってた人も何人か知ってます。

 

卓也ママ 私、IT講習会とか学校のITサポートとかの場でも人を見つけてスカウトしてましたよ。その中で、「Webの仕事をやりたい」と言ってた人に、じゃあ、こういうのやってごらんって紹介したり指導してたりしたら、その人ももう立派なWebデザイナーさんになりました。(※1)

 

廿 すごいなあ。やる人はちゃんとやる。

 

卓也ママ ホントにみんな、パートに出たか、それぞれ独立したか。独立っていうのは、Webデザイナーとして大成しちゃったとか、インストラクター業ですごく引っ張りだこになったりとか、ヘルプデスクの仕事に行ったら評価されてそこの常駐になっちゃったとか。
私のまわりでは、みんな仕事についちゃったんですよ。なんて優秀な人に恵まれてたんだろうと思うけど(笑)。

 

そういう人を見つけてスカウトする卓也ママさんもすごい。

 

卓也ママ そういう「私はこれがやりたい」っていうのが見つかればいいんだよね。
在宅ワークのセミナーで講演するときは、「在宅ワークをしたい」じゃなくて、「在宅ワークでこういう仕事がしたい」って具体的に考えていきましょうと、いつも言ってます。おばさんの小言みたいだけど(笑)。

 

廿 ああ、耳が痛いわあ。私も、「入力ぐらいなら簡単そうだからできるかも」っていう安直な気持ちで入ったから。

 

卓也ママ でも、今そういうこと言う場所もあんまりないんですよね。年に1回、東京しごとセンターのセミナーのときに、少し話をさせていただいているんですけど、それだけになっちゃいましたね。ひところは私、年4回も講習会で話をする機会があるくらい、世の中で在宅ワークへの注目度が高かったんですよ。(※2)

 

※1(卓也ママのおまけ)
最近は“WGH:Wheat Gluten Hydrolysate(小麦グルテン加水分解物)”含有のスポーツサプリメントの情報提供&販売サイトにかかわっておりますが、卓也ママはWEBデザインには手を出さないようにしてます(センスないもので…)。
スカウトした方々にご尽力いただいて、立派なサイトができてます。彼女たちも独学でWEBや昨今の技術(CSS,CMSなど)を勉強し、ここまでのものができるようになったという例として紹介させてください。
WGH  ウィグライショップ   Strongholds

 

※2 東京しごとセンター  東京都が都民の雇用・就業を支援するために設置した「しごとに関するワンストップサービスセンター」

 

在宅ワークの歴史をたどる(というか、たどりたい)

廿 ニフティの在宅ワーキングフォーラム(FWORK)でシスオペをされてたハンドルネームmiikoさん、ご存じですか?

 

卓也ママ 私はお会いしたことないけど、堀越久代さんがこの方とお知り合いじゃなかったかな。

 

シスオペは当時のニフティ用語でフォーラムのリーダーのこと。miikoさんは本名金井さんで、「エクセルで始める在宅ワーク」の著者上田光子(みーこ)さんとは別人。
堀越さんと後で出てくる神谷隆之さんは、労働政策研究・研修機構(JIL)機関誌2004年10月号の座談会の参加者。卓也ママさんも参加されている。この座談会記事は読みごたえがあるのでおすすめ。卓也ママさんの写真もある。(ご本人は「3年前だし今より顔が若い」と照れていらしたけど)

ビジネス・レーバー・トレンド2004年10月号
特集「在宅・SOHOワークという働き方~現状・課題・行方」

 

廿 FWORKが下火になって、ほかのフォーラムと合併したでしょう。その後シスオペをされたハンドルネーム孔明志さんに以前お尋ねしたら、FWORKは93年当時にmiikoさんが作られて、「在宅ワーク」っていう言葉自体を作られたのもmiikoさんだと聞いている、とおっしゃってました。いつかmiikoさんにそのころのお話を伺えたらなと思ってるんですよ。

 

卓也ママ 今どういうお仕事されてるんでしょうね…。
在宅ワークの歴史的な研究で一番権威があるのは、JILの神谷(かんたに)隆之さんですね。在宅ワークのことを学術的に研究してるのは、神谷さんとスピンクス先生(東京理科大)や法政大の諏訪先生などがいらっしゃいますね。

 

廿 この座談会記事の中に、80年代の第1次SOHOブームって書いてあるでしょう。それって具体的にはどういう…?

 

卓也ママ 私もそれはわからないんですよ。80年代って私たちまだ新入社員だし。

 

廿 たぶん、そのころに言ってたSOHOっていうのは、ニューヨークのソーホー地区で芸術家がアトリエ兼住宅みたいなところに住んで創作活動を、みたいなのですよね。それは手塚治虫とかの漫画家が住んでたトキワ荘で(笑)、今のSOHOにあんまり関連はしてないんじゃないかっていうイメージを、私は持ってるんですよね…。

 

SOHOとは違うけど、入力分野では、私がパートしていた入力会社は1982年の創業。それ以前も、印刷会社を結婚退職した人などが機材を貸与されて自宅で作業することはあった。当時、本人たちは「入力の内職をしている」と表現していたらしい。

 

最後の在宅ワーク本

今日は本や雑誌の話題。
出版業界は、そのとき流行している「売れる」内容を各社一斉に出す。パクリと言われようが気にせず、二匹目、三匹目のドジョウを狙う。だから、何が出版されているかを調べると、在宅ワークやSOHOをめぐるその時々の世相がよくわかる。

 

廿 アマゾンで「在宅ワーク」って検索すると、最後の在宅ワーク本は2003年秋の出版で、ほかならぬ私の『ゼロから学ぶテープ起こし』なんです…。「SOHO」で検索すると、最後のSOHO本は2006年秋に出て、今年に入ってからは1冊も出てない。

今年6月にアマゾンで検索したとき、大ざっぱだけどリストを作ってみた。(エクセルファイル)
在宅ワーク本リスト  SOHO本リスト

 

卓也ママ 『月刊SOHOコンピューティング』は、創刊号(1997年)から全部持ってます。何かのときに使えると思ってるんだけど、もう「何か」もなさそう(笑)。この雑誌、途中でアフィリエイト雑誌に変わって、それも結局この間終わっちゃった。

 

廿 そのまた途中では『SOHOドメイン』って雑誌名でしたよね。
SOHOの本は、98年ぐらいが一番出ているんです。なんと年間34冊。一番古いSOHO本は96年。どんなこと書いてあるのか今度見てみようと思ってます。

 

卓也ママ 私が読んだの、一番古いのは何だったかな…。それにしても、『パソコン主婦の友』(1996-2006)と『女性のパソコン』(2000-2003)は、やっぱりよくできてたと思いますよ。

 

廿 うん、『女性のパソコン』も頑張ってはいたんだけど、広告が集まらなかったみたい。

 

デザイナー向け雑誌などは、彼らが使う機材やソフトの広告が掲載できる。入力系の在宅ワークだと大した機材やソフトが必要ないから、通信教育講座の広告ばかりになってしまう。しかもそのころはもうブームが過ぎつつあって、通信講座自体が減っていた。
それにしても、卓也ママさんの読書量や幅広い知識には圧倒される。

 

卓也ママ (リストを見ながら)「この人の本はたいてい図書館にある」「この人には2、3回会ったことがある」「やっぱり笠松ゆみ(初期の出版物では山口ゆみ)本は名作だと思う。注意が必要な漢字一覧とか出てたでしょう。よくまとめたなと思った」「これも持ってる」「ここらへんから全部持ってる」「上田光子さんの『エクセルで始める在宅ワーク』は初心者に勧めてる」「これはJILの神谷さん」「これ読んだ」「あ、廿さんの本。これ、あと2年早かったらバカバカ売れてたかもしれない」

 

廿 うん、出遅れた。テープ起こし通信教育の悪徳商法が摘発だったあとだったから。

 

卓也ママ うちにはこのジャンルの本・雑誌はたくさんあるから、必要なものがあったらいつでも言ってください。

 

(卓也ママのおまけ)
本、結構人に貸してるのが多くて、手元にすぐあつまったのがこんなんと

Img_7515_320 
「パソコン主婦の友」や「主婦のパソコン」などなどの本棚の写真をちょっとだけ。Img_7518_320 

勤め続けるつもりだったのに

卓也ママ 廿さんって結婚退職ですか? 出産退職?

 

廿 私はその中間。ちょっと人間関係の悪い職場…人間関係なんてどこでもよくないですけど、「こんなところにいたら子供ができない!」とやめちゃった。でも、やめたときにはもう、実は子供ができていた、あとからわかったんだけど(笑)。

 

卓也ママ 私は本当は勤め続けるつもりだったんだけど、切迫早産で、会社から病院行ったらそのまま入院、結果3週間入院になっちゃったの。出産後はいずれ戻りたいとも思ってたんだけど、夜中の2時まで仕事をするようなこともあったから、やっぱり体力に不安があって。

 

廿 SEは長時間労働なんでしょう?

 

卓也ママ いや、やり方にもよるんですけどね。会社で私がやってたのは、人工衛星の画像解析。発電所から排出される水、温排水っていうんですけど、それがどの程度まで広がっているか、漁業アセスメントの関係で観測が必要なんです。漁船がセンサーをつけて、海面を細かく往復して観測してたんですけど。それは大変だから人工衛星のセンサーでどの程度合うかっていうのを研究してたの。

 

廿 じゃあ、卓也ママさんって理系なんですか?

 

卓也ママ それがわかんないの。大学は情報学部です。理系のつもりで入ったんですけど、分野的には社会学なんですよね。理科の先生の免許を取るのもいいなと思ってたら、うちの学部は社会しか取れませんっていうから、教職はやめた。

 

廿 社会学の中に情報処理があるのか…。

 

卓也ママ 文部省(現・文部科学省)の認可の関係でそうなったらしいんです。
卒業後は教授の紹介で情報処理の会社に入って、ダンナ見つけて結婚して。いい会社なので、やめた女性社員って私以外に1人ぐらいしかいないんですよ。社内結婚が多いんだけど、みんな夫婦そろっていまだに正社員だから、いいなあ、すごいお給料もらってるだろうなあ(笑)。

 

廿 妊娠経過が順調であれば、正社員のままでいられたんですね。その会社は昔から、お子さんが小さいときの短時間勤務制度とかがあったわけですか?

 

卓也ママ ないけど、その代わり2年ぐらい育休が取れるのかな。地元の会社なんでみんなクルマで通ってて通勤が楽だし、転勤のおそれもない。でも定着率がいい分、新入社員が入らないから、会社の未来はどうかな…(笑)。

 

赤ワインの乾杯から始まった昼食は佳境に入っている。ラムのローストもおいしいし、トマトのファルシーサラダもおいしい。

それにしても、妊娠の経過というのはその人の日ごろの体力や持病とは関係ないから、全く予測できなくて困る。女性の職業生活は、そういうことで変わってしまうのだ。

 

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