私の仕事探し(連載第2回) どうしてこんなに考えが甘いのか

時は1996年1~2月。相変わらず在宅入力の仕事を探してさまよう私…。春が近づいているというのに仕事は見つからない。おまけにパソコン(当時は高かった!)を買うはめになった。いったいこの投資は生きるのか? 生かせるのか?

仕事打診メールは来るけれど

 FWORK(在宅ワーキングフォーラム)にPRをアップして以来、ときどき仕事打診のメールが来ました。データ入力やベタ入力でした。創刊号の「全入力者基礎講座」のような、きわめて細かい質問が書いてあり、悩みながら大変な時間をかけてやっと返信メールを送っても採用されない、ということが続きました。

 (1)10分間に何文字入力できますか。

 (2)1日に何時間入力できますか。

 (3)校正までやってもらえますか。

 (4)希望の文字単価はいくらですか。

  今思い出せるものはこの程度ですが、どれも難問です。

答えるのは仕事そのものよりむずかしい

 (1)はまあまあだろうと思いました。

  (2)はくせもので、一応4~5時間と書くことが多かったように思います。でも保育園に行っていない1歳児(すごく手のかかる、激しい子でした!)がいるので、本当にそれだけ打てるかどうかは正直なところ不安でした。

  この(2)で2~3時間などと書こうものなら、まっさきにはねられることは間違いありません。つまり、在宅で仕事をしたい人が全員幼児持ちの主婦であるとは限らないからです。子供はいない、あるいはすでに子供が大きいなどの人も多いのです。こういう人たちは「8時間」「10時間」などと書いてきますから太刀打ちできません。そして仕事を出す方からいえば、できるだけ少ない人数に出したいわけです。

子持ちに仕事はムリなのか?

 8時間入力できる人なら3人に出す仕事量が、2~3時間の人ばかりだと9人に分けなければならない、その分、事務連絡の手間と費用がかかるわけです。そして仕事を出す人が一番気にするのは、仕様の統一が大変だということです。

  どんなきっちりした仕様書を書いても、人によって解釈の違いは必ずあり、また仕様書にあてはまらない例外も必ず出てきます。3人がばらばらなのを直すのはまだいいのですが、9人ばらばらなのを直すにはよくて半日、ひどいときは2日間かかりっきりになってしまいます。

  多くの人が応募するこういう募集形式の場合、2~3時間しかできないと書いた人は、たぶんそれだけではねられるでしょう。子供を育てながら仕事をするのは本当に楽ではありません。

  (3)は、私には意味がよくわからないまま「はい」と書きました。入力会社T社の内勤をするようになってから知ったのですが、入力者とは、入力のみをするものだと考えている人がけっこういるのですね。校正・修正は別の人がやってくれると。

  実際には、入力者に入力物を仕上げさせる、つまり校正・修正済みで間違いのないものを納品させる会社が、圧倒的に多いのではないでしょうか。

「入力者の地位の向上」と言ってる間にも単価は下がっている

 (4)、希望の文字単価も難題です。0.*円、とか書いたように思いますが、これは当時としても、初心者としてはずうずうしい値段だったのかもしれません。ベタ入力は、下請けの場合、もっと安いのが普通のようです。私はこの部分ではねられたのかもしれません(エンドユーザーから直接請ける場合はまったく別です)。

  ただ、「安売りする人がいるからつけこまれて、入力者の地位は向上しないのだ」という意見が根強くあるのも確かです。その頃はまだ実際の仕事をしたことがないので相場が分からず、FWORKは“入力者の地位”とかの問題がよく話題になっていたので…。ちょっと話題が先に進んでしまいますが、その後ある印刷会社からもらったベタ入力は、0.4円でした。

  その後、ベタ入力は誰でもできるもの、専門技術とは言えないものになってしまったので、現在はもっと低単価の仕事も多くあるようです。

「慣れたら在宅可」が情報誌に載ってる!

【テープ起こしProject】が終わった頃、『とらばーゆ』と『FromA』を何となく買ってきてめくっていたら、どちらかに入力オペレータの募集が載っていました。“慣れたら在宅入力可”という意味のことが書いてありました。

  面接会は4回か5回あり、都合のいい回を聞かれました。私が行ったときは6人でグループ面接でした。説明資料が配られて説明があり、それから実技試験、使用機種は書院でした。

  前の会社で使っていたから打てる、と思って行ったのに、結果はさんざんでした。同じJIS配列のキーボードでも、オアシスは独自の配列が一部にあり、私はすっかりそれになじんでしまっていたのです。それにキーが重くて…私のオアシスはとてもキータッチが軽かったし、私は今でもそうですがキーが重いとまったく打てないのです。

  実技試験では、入力の原稿は新聞のコラムでした。わざと選んだのでしょう。

  新聞は打ちにくい原稿の代表です。字が小さいし、縦書きのものを読みながら横に打つのはちょっとコツがいるのです。見慣れない熟語やカタカナ言葉、アルファベット製の略語まである、試験問題としては万全のコラムでした。私は制限時間内に打ち終わりませんでした。

  それから表の作成、不思議に書院独特の罫線の操作はよく覚えていました。こちらはそれなりに快調でした。

どうしてこんなに考えが甘いのか

 応募者からの質問は、“慣れたら在宅入力可”というところに集中しました。

  そこはビジネス系の専門学校でした。自分の学校用の教科書やテスト問題を作り、そのノウハウで、書店で売るふつうの自習本も作っているのです。だから校内で使う試験問題などは、そのまま版下にして印刷できるところまでレイアウトした入力、本を作る原稿は編集機に流し込むためのベタ入力、という二種類の仕事が発生するわけです。(今はDTPが発達したので、この編集機という言葉も聞かないようです。)

  会社側の説明は、「慣れたら在宅可といっても、慣れるまでにかなりかかる、それまでは出社して打ってもらいたい。ベタ入力といっても、ダミーを入力する部分など、編集機に流す形式にかなりの規則があり、そう簡単に覚えられるものではない」とのことでした。

 「前の週に仕事のできる時間帯を登録してもらい、仕事があるとき連絡する。仕事はあったりなかったりで安定しない」「入力者のランクにより単価は違い、仕事量も一定ではないので月収もいろいろだが、下は2万、上は20万近く。最初は全員最低ランクから出発」

  これだけの説明を聞いても、愚かなもので、いいところばかり想像してしまうのですね。“私はすぐ慣れて在宅入力を許してもらえる、私はすぐランクが上がって単価も良くなるし、たくさん仕事を回してもらえる”…もう、バカじゃないの、というところです。たった今、あのわずかなコラムを時間内にアップできなかった私ではありませんか。もちろん不採用でした。

忘れていたDMからベタ入力が!

 ところが2月半ばになって、前年12月に出したDMの反響があったのです。私はもうその件はすっかりあきらめ、忘れてさえいたところでした。近くの印刷A社から、ベタ入力原稿用紙100枚分、ということでした。指定された納期は楽々でした。

 「オアシスご使用ですね、データ形式でMS-DOSテキストに変換できますか」

 「できます」

  これはオアシス独自の仕様で、パソコンで読めるテキスト文書を作れる(特殊記号は変換されないけど)のです。【テープ起こしProject】のとき苦労したので、それはできるようになっていました。

  「うかがうとき、履歴書は」「別にいりません」今度の会社は簡単です。出向いたらいきなり原稿用紙が入った袋を渡されて、「原稿通り打ってください」指示はそれだけです。ただし、私の方から、質問をメモしていきました。

 (1) わからないことがあったら電話で聞いてもいいか。そのとき呼んでもらう担当者は誰か。

 (2) 段落アタマは一字下げていいか。

 (3) 原稿に誤字脱字があったときは直していいか。

 (4) 納品はフロッピーと出力物でいいか。

 

  他にもありましたが、今は覚えていません。(1)はどの仕事でも重要です。担当者が一人しかいなくて、他の人はそんな仕事が進行していることさえ知らない、という場合さえあるからです。

  (2)、原稿通り入力すればこれは当たり前のように思えますが、そうとも限りません。一字下げは編集機が自動で設定するので下げてはならない、という仕様もあるからです。その場合は、段落末の改行のみとします。このときがどちらだったかは、今覚えていません。

  (3)は、直さずそのまま打ってもらいたい、ということでした。

  (4)納品はフロッピーのみ、しかもその場で機械に読み込ませてフロッピーは返却する、ということでした。

大河○○小説との闘い

 もう6年近く前のこのベタ入力について、ほんのちょっと触れても訴えられはしないと思うのですが…。家に帰って原稿を見てみると、これはなんとSM小説でした。

  私が打っているとき誰も来ないでね~、恥ずかしいから、という内容でした。どうやら素人の自費出版のようです。テーマ上、一発で変換できない単語が多いのは仕方ありませんが、漢字の選び方や送りがなのつけかたが古いのです。文章もあまりうまくないし、そっち方面の専門用語?で私にはよく分からない言葉の他に、明らかな誤字脱字も多々あります。直すなというのですからかえって大変、ワープロは正確な字を出してしまうのでわざわざ悪く修正するのです。

  途中であと200枚追加で打てますかと電話があって、もちろんOKしました。この300枚が文頭でも文末でもないところをみれば、全体では何百枚になるのか、なかなかの大河SM小説です。

幼児がいてはできない、だけど保育園は狭き門

 それにしても、子供がワープロをいじりに来るので起きているときは打てず、1歳半近くなると昼寝は1日1回しかしないし、私は夜に弱い方なので(朝にも弱い、つまりたくさん寝ないともたない)、打つ時間には困りました。日曜日に、夫に子供を頼んで奥の部屋に立てこもり、まだ足りないので平日に、近所の子持ち仲間に子供を数時間預かってもらいました。

  こんなことでこの先在宅でやっていけるのだろうか、今回は納期にゆとりがあったからこの程度で済んだけれど、もっと急ぎだったら子供をどうしたらいいのか。

  保育園に入れれば保育料もかかり、数十通出したDMが2カ月経って1つの仕事にしかならない能率の悪さでは、経済的にも合わない。友人は快く子供を預かってくれたけど、彼女は実家が近くなので、私が彼女の子供を預かる機会はなさそうでした。預かり合うとか、本当に困ったとき預かってもらうのならともかく、自分が仕事をしてお金をかせぐために毎回頼むわけにもいきません。

 

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