奥山睦さん5

(2008年4月のザイニューWebでの連載を再構成したもの。奥山さんの経歴等も当時のものです)

 

在宅ワークでWLBを実現

廿 在宅ワークがどうのと文句ばかり言っていますけど、今回、義父の病気でばたばたしたとき、本当に在宅ワークでよかったと感じたんです。特に主婦にはお勧めの働き方だと思いました。

奥山 今どきの言葉で言うと、ワークライフバランスですよね。それを実現しやすいというか、実現することを目標にできる働き方の一つであることは間違いないと思うんです。
 そのためのツールとしてパソコンやインターネットがあって、遠隔地であるとか障害の有無だとかを超えられる。この働き方は素晴らしいと思うんです。最初に関わったころから、その思いは全く変わってないですね。

廿 そうですか…、なんで私は数年おきにそこが揺らぐんだろう。

 

奥山 在宅ワークはね、何らかの制約があって就労環境が厳しい方たちにとって、福音であることは間違いないんですよ。ただ、やり方、姿勢、方向性、手法などを間違えると、つまらないものになってしまう。それは、廿さんみたいなロールモデルが道をつくっていけば大丈夫だと思うんですよ。

廿 う、うーん…。悩みも含めてのロールモデルというか。ライフステージのいろいろな出来事を10年近く在宅で経験してきたわけだから、そういう意味ではロールモデルにはなりえるかもしれませんけど。ロールモデルには「お手本」みたいな響きがあるから、むしろ「ケーススタディ」かな。反面教材としても使えそう。

 

奥山 でしょう? ただ、悩むことも含めて受け入れてしまったら楽ですよ。悩むのは当たり前なんです。何年かやってきたところで、これからどうしようって悩むのは普通のことだから。

廿 そうか…。

奥山 みんな探していると思うんですよ。私だって探しているし。技術革新は早いし、時代の潮流を見る力も養っていかなければいけないし。いろんな要素があって、自分の方向性ってなかなか決められないと思うんです。むしろ、決めたら危険ですよ。

 

廿 そうですよね。10年後にどうしていたいか考えましょう、とかよく言われますけど、「いや、10年後にどんな仕事があるかわからない」と私は思うんです。

奥山 たしかに。10年後にどうなっているかっていうよりも、思い描いていた自分の姿に近づけているかどうかです。

 

メンターの存在に気がつく感性

奥山 大事なのは、自分にとってのメンターを見つけることですね。メンターの存在に気がつく感性を養うというか。私もそうだったように、みんな誰かに育てられてきてるんですよ。たぶん、廿さんもたくさんの人を育ててきたと思うんです。

廿 育ててきたかどうかはわからない…。育ててくれた人は、すぐ何人か挙げられるけど。

 

奥山 育ての連鎖だと思うんです。自分が育てられたことをまた返していけば、絶対人は育っていくんだから。奇しくも今年は、私は大学院に入学する。一方では大学院で教える立場にもなるということで、たぶんこれが最後の役目かなと思ってるんですね。

廿 何がですか?

奥山 人を教えていくこと。

廿 究極の、というか。

 

奥山 うん。人生の後半に向かう時期、これからの10年はそれをやりなさいよっていう天命のような気がするんです。たぶん人って育てられる期間があって、ある程度成長すると、今度は自分が成長した分、人を育てていくという役割に入っていくんだと思うんです。私、卓也ママさんなんかにも育てられました、すごく。

廿 卓也ママさんは「奥山さんに育ててもらった、いろいろな仕事をやらせてもらった」っておっしゃってましたよ。

 

奥山 彼女は愛情深いんですよ。セミナーに参加者が少ないと、あちこち働きかけてくれた上に、自分がそのセミナーに出席までしてくれたりする。

廿 うわー。

奥山 彼女の気配りというか愛情の細やかさに、何度も助けられてきたんです。もう10年以上仕事をしてもらって、うちの社員さんより付き合いは長い。いい人に巡り会ってきました。

 

廿 いい人に巡り会ったとき、いい人だって見つける目も大事ですね。

奥山 見つけるっていうか、感謝できるってことかな。自分がありがとうっていう気持ちを持っていたら、相手にも伝わるはずなんですよね。すごくシンプルだけど、誠意と感謝だと思うんですよ。この2つだけ持っていれば絶対なんとかなる。

廿 崇高な結論でまとまりましたっ。ありがとうございました。

 

連載のあとに…1

(奥山睦さんからコメントをいただきました)

 

 廿さんとは、さまざまなセミナーで何度も顔を合わせていたのに、きちんとお話する機会が得られずにこれまできました。今回、取材の時間をとっていただいて、2時間近くもお話ができ、大変楽しいひとときを過ごさせていただきました。改めてこの場をお借りして御礼申し上げます。

 お話の中で、大学を中退し、再度、通信教育で学び始めたことや、染色の職人を目指していたこと、でも実は自分が不器用だったということに途中で気がついて、頓挫したことなど、意外な一面を知って、「これだから対面の話は面白い!」と痛感しました。

 

 1995年頃から、在宅ワークやSOHOが一種のブームになり、行政の支援策や支援施設ができたり、在宅ワーカー出身の起業家が続々と生まれたりと、過熱気味なブームが去って、確実に淘汰の時期を経てきました。現在、生き残っている在宅ワーカーの行動特性を探っていくと、「成功するための不文律」というのが見えてくるような気がします。

 

 廿さんも成功した在宅ワーカーの1人に間違いないと思いますが、それでも思い悩んだり、立ち止まったりする時期は必ずあるものです。でも、人間ってこの時期があって、それを越えようと必死にもがくからこそ、次に進めるのかもしれません。しかも一生懸命、もがいたり苦しんだりしている人の一途さって、本当に抱きしめてあげたいほど愛おしいと思うのです。

 

 私が好きな言葉に「過去と他人は変えられない。変えられるのは自分と未来だけである」というものがあります。
 現在、在宅ワークの入り口にいて、報酬面や条件面で悩んでいても、勉強を続け、顧客への誠意を示し、感謝の念をもって仕事を継続していくと、きっと光は見えてきます。そして試練は人を強く、優しくします。

 

 私はたくさんの人に助けられてようやく今、ここにいます。「育てられ、育てる」という連鎖が、この在宅ワークという世界にも定着していけば、きっと未来に続く素晴らしい就業形態になっていくのではないでしょうか。

 

連載のあとに…2

 法人化したほうがいいのかなという話題は、在宅ワーカー同士の会話にたまに出てくる。取引先との関係で困るというのが一般的な理由。「個人事業は社会的信用で劣るから、会社としか取引しない」と相手に言われてしまうわけだ。

 個人事業として法務局に商業登記して、取引先に「法律上は会社同等の信用があります」と説明する、というのが私のやり方。マイナーな制度だけど、一応、事業者としての登記簿謄本や印鑑証明書を取引先に提出できる。これで東証一部上場企業とも取引できているから、会社にするぞ!という気分になり切れない。

 

 だってねえ。自宅のリビングでやっていても会社であれば最低でも年7万円、今より税金がかかる。
 まして、「事業規模を広げよう」と事務所を借り、人を雇えば、仕事が突然切れても家賃と給料(+健康保険、厚生年金…)は払わなければならない。そのときの経営者の苦労は、4月17日の記事後半~18日の記事で語られている。

 

 在宅ワーカーから会社社長への変化は、なだらかな上り坂の途中にごく自然にあるのではない、と私は思う。国境があって、そこからは違う言葉・違う文化になる。在宅「ワーカー」という言葉自体が「作業者」を示していて、経営者の対極とも言える。
 さびしいから会社にしようか…なんて言ってる軟弱な私は、国境を踏み越えず、在宅ワークの国でやっていくほうが合っているかもしれない。

 

※法人化は「会社法人」とは限らない。主な発注者が役所と公的機関という土地(つまり多少田舎)では、NPO法人のほうが向くことがある。理由は、役所は非営利団体を好むから。私の地方の友人には、この理由でNPO法人化した人が何人かいる。団体が非営利でも、構成員がしかるべき報酬を受け取ることは問題ない。

 

連載のあとに…3

 キャリア・カウンセリングを受けてみたくなったという感想を、何人かの方からいただいた。そうそう、ぜひ受けてみてください。

 

 相談することは素晴らしい。何を相談しようかなと思ったとき、まず考えるし。どんな答えが返ってくるかな?と予想するとき考えるし(奥山さんの答えはどれも全然予想どおりでなかったので、かえって感激した)。もちろん、相談タイム自体が宝の山だし。
 しかも相談というのは、その後ずっと役立つのだ。今後、問題に直面したとき、奥山さんなら何とおっしゃるだろう?と考えるだろうから、それが自然にヒントになる。

 

 漠然と「行き詰まった…」と嘆いていたけれど、相談後は脳みそがすっきりして、具体的に調べたり検討したりできるようになった。パートや派遣で外へ出るならどんな仕事がいいかなと求人情報を見たり、逆に事務所を借りるほうを検討して家賃相場を調べてもみた。


 検討結果…今年はこの仕事形態を維持、来年あらためて考える。

 相談前と同じ? いやいや。相談しなければ、いつまでも「行き詰まった、行き詰まった」と騒いでいただろう。「今年は維持」という結論を出した理由はいくつかあるけど、書くと長くなるので省略。
 とにかく、今は自分の決断に納得できている。奥山さん、お忙しいところを本当にありがとうございました。