奥山睦さん1

(2008年4月のザイニューWebでの連載を再構成したもの。奥山さんの経歴等も当時のものです)

 

在宅ワーカーの相談に乗ってくれる人

 私が今悩んでいるのは、大きく言えば「在宅ワークとは何か」ということなのかもしれない。
 だから、在宅ワーカー仲間に相談するのはちょっと違うような気がした。同じ穴に落ちて、一緒にぐるぐる消耗してしまいそう。
 在宅ワーカーではない人。かといって、在宅ワークのことを全然知らない人にはわかってもらえないだろう。それで、会社経営者であり、キャリア・コンサルタントであり、在宅ワークセミナーのコーディネートなどもされる奥山睦さんに相談してみようと思った。

 

 今回の連載記事後半で出てくるが、奥山さんがキャリア・コンサルタントの資格を取った動機の一つは、自社で仕事を発注している在宅ワーカーさんから、しばしばキャリア相談を受けたためだという。やっぱり!という感じ。なんだか相談したくなる方なのだ。

 

 「在宅ワークとは何か」を考えるとっかかりの一つとして、私は昨年から法政大学の経済学部(通信制)に籍を置いている。奥山さんは法政の大学院にこの4月から入学された。
 なんとなく「同窓」意識を感じかけたのだけど、ずうずうしかった。学部と院の差どころではない、なんったって奥山さんは、一方ではこの4月から静岡大学大学院の客員教授にもなられたのだから。

 

 学ぶことと教えることの同時進行、育てられる自分と育てる自分の同時進行あるいは時差進行。今回の相談で私が感銘や影響を受けたのは、奥山さんのその姿勢だと思う。

 

回答者の自己紹介

奥山 睦(おくやま むつみ)

 

 出版物、WEBサイトの企画制作を主とする株式会社ウイル代表取締役。
 東京都大田区の女性企業家ネットワーク「TES」(テス)有志の共同出資によって設立した、ITコンサルティング会社の株式会社イーテス取締役。

 

 東京・大田区で数々の地域活性化のためのプランニングや審議会、協議会の委員を歴任し、2004年、大田区から「特別功労者」表彰。
 専門的なITスキルと異業種交流会活動、キャリア・コンサルタントとしての経験により、IT活用、再就職支援、起業家支援、地域活性化、ワークライフバランス等をテーマに全国で講演活動も行なっている。

 

 著書に、『職人の作り方』(毎日コミュニケーションズ)、『大田区スタイル』(アスキー)、『メイド・イン・大田区』(サイビズ)、『在宅ワークハンドブック』(社会経済生産性本部)、『SOHO受発注トラブル事例集』(社会経済生産性本部)等。
 現在、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻修士課程に在籍。

 

静岡大学大学院工学研究科客員教授
独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援アドバイザー
財団法人社会経済生産性本部認定キャリア・コンサルタント

 

二重の行き詰まりに悩む

廿 今いろいろ行き詰まっていまして。99年1月から在宅ワークを始めてもう丸9年、10年目なんですけど、実はそろそろ人としゃべりたくなったんです。自宅で一人でやってるし、私が仕事をお願いしてる方は地方に多いんです。だからメンバーとしゃべることもできないし。子供が小さいときはいい働き方だと思ったんですけど。

奥山 お子さんが小さいときは勤めきれなくて在宅ワークに入っても、お子さんが大きくなってくるとことさら家にいる必要もない。7、8年たつと派遣やパートに出たりする在宅ワーカーの方って多いですよね。だから、在宅ワーカーが何年かたって人と話したくなるっていうのは、すごく自然な流れのような気がします。

廿 そうなったときに方向は2つあって。1つはパートなり派遣なりで雇われることですよね。もう1つは自分が会社を作っちゃう。

 

 ここは理屈が飛躍しているのでちょっと補足。
 自宅のリビングルームで「うう、何これ、どうしよう」とつぶやいても、返事をしてくれる人がいない。丸9年、そういう仕事形態でやってきた。最近、「どうしたの?」と反応してくれる人が欲しくてしょうがない。

 そのための方法1が、外へ雇われて、人がいる場所で働くこと。方法2は、四月堂に常勤で誰かがいる状況を作ること。それにはオフィスが必要で(リビングにこれ以上パソコンデスクは入らない)、オフィスを借りたり人を雇ったりするには、会社にしたほうがいいような気がする、というわけ。
 返事してくれる人が欲しいなんて理由で会社を作るのは甘すぎる。自分でも、それはわかっている…。

 

廿 しかも、下の子が小学校に入って以来(すでに小4)、保育園の送り迎えっていう最低限の運動もなくなっちゃったんです。家でじっとしている生活で、年齢のせいもあるんでしょうけど肩こりがひどくて、何時間も集中して入力することができなくなっちゃって。だから、在宅ワーカーとしてだけではなくて、入力者としても行き詰まった感じがするんですよ。
 スパッとやめて別の仕事で外へ出ちゃうか、あるいはこの路線のまま、自分が入力しなくても済むように会社化して一回り大きくするか…。

 

過去の経験がなくても今勉強すれば

廿 それと、在宅ワーク関係の講師をするとき迷うのは、誰でもできるようなことを言ってお勧めしちゃっているけれども、経験のない人がやっていけるんだろうか、軌道に乗せていけるものなんだろうかと。

奥山 ああ、なるほど。

廿 私、在宅ワークを志して一度挫折してるんですね。仕事に結びつかなくて。経験がない、赤ん坊を抱えて身動き取れない、仕事時間もちょっとしか取れない、知識がない…。でも、セミナーにはそういう人も結構みえるでしょう。

奥山 そういう人が大半ですよね。

 

廿 私はあきらめて、子供を預けて無理やりパートに出たわけです。パート先がたまたま入力会社だったので、私はそこでいろんな経験を積むことができて、そこからは入力系の在宅ワーカーとして仕事を軌道に乗せることができた。だから私の疑問っていうのは、そういう経験を持ってない人がやっていけるものだろうか。

奥山 たしかにそれはありますね。でもね、例えば私の知り合いの女性が、在宅の社員なんです。

廿 在宅勤務で、正社員?

 

奥山 そう、出産4、5年後から在宅ワーカーとして働き始めて、5年ぐらいフリーでやった後に完全在宅勤務の正社員として採用されたわけです。彼女なんて大学卒業してすぐ結婚しちゃったから、就職歴はまったくないんですよ。在宅ワーカーとして自分でコツコツ勉強して。

廿 偉いなあ。その方はどういうお仕事をされているんですか?

奥山 マーケティングリサーチ関係ですね。自分がリサーチャーだった時期を経て、数人のリサーチャーを管理するマネジメントの仕事になって。Webのコンテンツの記事を書いたりとか仕事の幅も広げて、今はマーケティングの会社で、在宅勤務の正社員としてリサーチャー的な仕事をしているわけです。

 

 そういえば、入力会社に勤めていたころ、やっぱり結婚が早くて仕事経験がないのにものすごく優秀な入力者がいた。入力は早いし、仕様のポイントを的確につかむ人で、あっという間にほかの入力者のチェックまでやってくれるようになった。
 勉強の仕方や仕事との付き合い方を知っていて、経験がなくても自力で取り組んでいける人というのは、たしかにいる。

 

在宅ワークの中で何をやりたいのか

奥山 結局ね、私もいつも言ってるんだけど、在宅ワークという職種はありませんと。

廿 そういうことか…。

奥山 働き方の一つの形態であって、正社員・パートと同じように在宅ワークという働き方の形態であって。その在宅ワークの中であなたは何をやりたいんですか?というところの、自分を見つけてない人が、セミナーなどにはやっぱり多いですよね。

 

廿 そういう意味では、在宅ワークの内容が外から見えにくいのがよくないのかな。

奥山 入口だけいろいろかじってもいいと思うんですよ。自分が何をやりたいのか見つからないときは、やっていくうちに好きになることもありますから。

廿 やりたい仕事を見つける。それと、向き不向きが…、向いているっていう言い方は大ざっぱですけど、向いている人っていますよね。

 

奥山 私もたくさん在宅ワーカーを見てきましたけど、在宅ワークで成功している方の行動特性ってあるんですよね。みんな、人間関係を密にとることが上手。在宅ワーカーでありながら外に出ることをいとわない。あと、人をまとめるのがうまい。ワークグループみたいなものを、自分がリーダーシップをとってまとめるのがうまい。

 

廿 案外そういう人は、在宅ワークと言いつつ家でじっとしているわけではないですよね。

 

奥山 そうですね。あと、自分ができないとき頼める人がいるという形で、リスク回避をうまくやっている。そのための布石として常日頃からリーダーシップをとって、自分でオフ会やイベントを企画したり。それに、やっぱり感度がいいですよね。次に何が流行るかとか、今何が技術的に主流になってるんだとか、そういう情報収集が上手なタイプが多い気がします。

 

 一応補足。この成功する在宅ワーカーの行動特性は、どちらかといえば「独立型」の在宅ワーカーに当てはまる。成功する「登録型」の在宅ワーカーの行動特性というのは、少し違うかも。

 

社長がいろいろやらせてくれた

廿 学生時代とかから、いずれは会社を作ろうと思ってらしたんですか?

奥山 全然! 大学時代の私なんて、自分が働くこと自体考えてなかったんですよ。結婚したかった人がいて、卒業したらすぐ結婚しようと思ってたんです。でも失恋してしまって。

廿 うっ…。

 

奥山 それで途方にくれて、1年ぐらい父親の会社でアルバイトさせてもらったんですね。父は弁護士で、私は書類を入力したり裁判所に書類を届けに行ったり、いわゆる事務です。

廿 弁護士さんを自営業と言っていいかはわからないけれども、お父さんが勤め人の方ではない、そういう家庭環境は影響していますか?

奥山 影響しています。祖父が製造業の会社経営者だし、父は弁護士だし、母は画家だし。

 

 会社を起こすにしろ在宅ワーク形式でやるにしろ、自営でやっている人は、もともと身近に自営業の人がいたというケースが結構多いような気がする。

 

奥山 私は美大の油絵科出身なんです。父の会社を出てから最初に就職したのは編集プロダクションで、当然デザイナーとして採用されたんです。でも社長が、お前はしゃべれるから営業もやってみろ、文章も書けそうだからコピーを書いてみろとか、いろんなことをやらせてくれた。おかげで、3年ぐらいで仕事が一通りできるようになったんです。企画書書いて、営業に行って、台割(だいわり)を作って、執筆して、レイアウトまで全部。

廿 うわー、すごい!

 

奥山 それで今度は、映像の販売促進をするベンチャー企業に転職したんです。そこで企画を立てる面白さに目覚めたことも、今につながっています。その次は映像の作り手に回りたくて、また転職してテレビ番組も制作している企画会社に。

 

 この仕事はクリアしたから次はこれに転職、と積極的にキャリアを積み上げてきた奥山さん。ところが、今度の会社で大ピンチに陥る…。